

2025年10月から、アメリカで医薬品に100%の関税が課される――そんなニュースが飛び込んできました。
発表したのはトランプ大統領。
輸入医薬品だけでなく、キッチン製品や家具にも高い関税をかける方針を示し、世界の市場に大きな衝撃を与えています。
特に注目すべきは「医薬品」です。
薬の価格はそのまま医療費や患者さんの負担に直結するため、この関税が実際に導入されれば、アメリカだけでなく世界の医療現場に波紋が広がる可能性があります。
「薬の値段はどうなるのか?」「保険制度や患者負担にどんな影響が出るのか?」――これは決して遠い国の話ではありません。
本記事では、このニュースの概要を整理しつつ、医療費にどのような影響が考えられるのかを、シナリオ別に解説していきます。

1.ニュース:医薬品に100%関税=10月から、キッチン製品50%―トランプ米大統領

【ワシントン時事】トランプ米大統領は25日、輸入する医薬品に対し、10月1日から100%の関税を課すとSNSで表明した。米国内で製薬工場を建設中の企業は対象外とする。トランプ関税で最も高い水準となる。キッチン用の棚や関連製品に50%を適用することも明らかにした。
日本は対米貿易交渉の結果、医薬品関税は他国の税率に劣らない水準とすることで合意。欧州連合(EU)は医薬品関税を15%とすることで米国と合意しており、日本への大きな影響はないとみられる。一方、中国やインドなどに拠点を持つ企業に響きそうだ。
トランプ氏は高関税の対象をブランド医薬品や特許を取得した医薬品に指定。これまでは製薬企業に猶予を与えるため、関税の導入当初は低税率を適用し、1年程度で引き上げる考えを示していた。
トランプ氏はまた、キッチン用の棚や洗面化粧台などに50%の関税を10月1日から課すと表明。布張りの家具には30%の関税を導入する。大型トラックには25%を課す。 (C)時事通信社
まず、事実関係を整理しておきましょう。
- 2025年10月1日から、アメリカは「特許・ブランド医薬品(branded / patented pharmaceuticals)」の輸入品に対して100%の関税を課すとトランプ大統領が発表しました。
CBSニュース - ただし、例外条項として「既に米国で製薬工場の建設を開始している企業」には関税を免除する(あるいは軽減する)という条件が付いています。
ブルームバーグ
- 一方で、ジェネリック医薬品、特許切れ後の薬剤(generic / off-patent drugs)はこの関税対象には含められないとの報道もあります。
ファイナンシャル・タイムズ - 医薬品以外では、キッチン製品(キッチンキャビネット、洗面台など)に50%、家具に30%、大型トラックに25%などの輸入関税も強化する方針が発表されています。
supplychaindive.com+3AP News - この発表を受けて、アジア・日本の製薬株が急落するなど、投資家のセンチメントにも波及が出ています。
Reuters+2Reuters+2
この関税政策は、トランプ政権の貿易政策の再強化の一環とみなされています。
The Washington Post

2. どのような影響が出ると考えらえる??

今回の関税強化のなかで、特に注目を集めているのが「医薬品」に対する100%の関税です。
キッチン製品や家具と違い、医薬品は人々の健康や命に直結するため、その影響は生活の質や社会全体の医療費にまで波及しかねません。
グローバルな医薬品サプライチェーン
現代の医薬品産業は、原料の調達から製造、販売に至るまで国際的に分業化されています。多くの特許薬やバイオ医薬品はアメリカ以外の国で生産されており、輸入依存度が高い分野も少なくありません。関税が導入されれば、そのコストは薬価に直結します。
特許薬とジェネリック薬の違い
対象となるのは「特許薬(ブランド薬)」です。これは新薬として開発され、依然として製薬企業が独占的に販売できる薬剤であり、価格が高止まりする傾向があります。ジェネリック薬(後発医薬品)は除外されると報じられていますが、治療分野によっては特許薬しか選択肢がないケースも多く、患者や医療機関は関税の影響を避けられません。
保険制度への波及
薬価上昇はすぐに「患者自己負担」と「保険給付費」の増加につながります。アメリカでは民間保険が中心、日本を含む他国でも公的医療保険制度を通じて薬剤費が財政を圧迫する可能性が高まります。結果的に、保険料や税負担の上昇、あるいは給付制限につながる懸念があります。
過去の教訓
過去の関税政策でも、医療機器や原材料の価格上昇が報告されてきました。医薬品が関税対象となれば、これまで以上に直接的で深刻な影響をもたらすと予測されます。

医療費への影響を考える:主要論点とシナリオ

この関税政策が実際に医療費にどう影響しうるかは、複数の因子・条件(政策の実際の運用、例外の適用、業界の反応、代替調達ルート、保険制度など)によって大きく変わります。以下、論点別に「可能性」と「リスク」を洗い出しておきます。
論点 | 仕組み | 上昇圧力となる要因 | 抑制要因・逆方向要因 | 結果シナリオ |
---|---|---|---|---|
薬価そのもの(輸入医薬品価格) | 関税が輸入薬にもろに掛かれば、輸入医薬品の価格は関税分上乗せされる | 特許薬・ブランド薬で輸入依存度が高い分野、例外適用できない企業 | 例外適用、国内生産の促進、既存の契約・長期購入交渉、為替変動、保険制度による補填 | 患者負担増、保険給付費の増大 |
代替供給源への転換コスト | 関税回避のため、メーカー・流通業者が調達ルートを見直す必要 | 新しい生産設備投資コスト、在庫調整コスト、調達契約見直しコスト | 政府補助、交渉力、既存の多国籍企業の柔軟性 | 移行期での価格変動、供給の不安定化 |
保険・医療制度への波及 | 保険給付範囲・再交渉、政府補助負担の増加 | 公的医療制度が薬剤価格上昇を吸収できなければ、財政圧力が増える | 保険制度改革、交渉力強化、薬価調整機構の活用 | 保険料上昇、給付縮小、自己負担率引き上げリスク |
医療機器・関連材料への影響 | 医療器具、消耗品も輸入関税リスクがある(今回の政策発表では医療器具は明記されていないが、拡大の可能性は残る) | 輸入依存の高い器具・試薬・検査機器分野 | 医療関係品の除外交渉、国産化誘導、関税除外措置 | 医療機関コスト上昇 → 患者への転嫁(診療費、検査費) |
インフレ・マクロ経済との連関 | 総合物価上昇が医療費全体を押し上げる | 医薬品・医療関連品だけでなく他分野への波及、賃金上昇期待 | 中銀の政策対応、景気抑制、政府補助 | 医療サービス価格上昇、医師・施設コスト上昇 |

想定されるシナリオ例
- 最悪シナリオ
輸入依存度の高いブランド薬分野で関税100%がそのまま価格に反映され、患者自己負担が急増。保険制度(国・民間問わず)の薬剤給付費も膨張し、保険財政に深刻な圧力。最終的に医療機関が薬剤補填を要求したり、患者のアクセス制限が生じたりする。 - 中間シナリオ
例外適用で関税を回避できる企業が多く、また国内生産体制を整える企業が増える。輸入薬の価格上昇は部分的に抑えられる。保険制度も段階的に対応。患者負担は上昇するが、急激なインパクトは限定的。 - 楽観的シナリオ
関税導入が実際には法律的・実務的障壁で頓挫、例外運用が広く適用される。国内生産体制構築が早く進み、関税影響が限定的。医療費上昇への直撃は回避される。
特に注目すべき留意点・不確定性
- 政策実行のリアリズム
発表通りに関税が適用されるかどうかは、議会・司法・国際協定との兼ね合いで大きな制約があります。トランプ政権の他の関税政策でも、訴訟・議会の抵抗で実施が遅れたり修正された例があります。 - 除外・緩和措置
製薬企業が米国内に工場を建設中であれば関税免除という例外が設けられており、これがどこまで運用されるかが実質的な影響を左右します。ファイナンシャル・タイムズ+2AP News+2 - 薬剤の特性・構造の違い
・特許薬とジェネリック薬では輸入依存度が異なる
・バイオ医薬品、希少疾病用薬、生物製剤などはグローバル調達が不可欠なものも多く、関税負荷が相対的に大きくなる可能性あり
・製剤、原薬、構成中間体、原料化合物のサプライチェーン構造も複雑で、関税波及が「薬価+中間コスト」に波及する - 為替・国際価格競争
為替変動や他の国との価格競争が、関税上昇分を緩和または悪化させる可能性があります。 - 保険制度・薬価制度の対応力
多くの国では薬価調整、交渉制度、上限設定、再算定制度などがあるため、制度設計次第で価格転嫁を制御できる可能性があります。

まとめ
今回の医薬品への100%関税というニュースは、単なる貿易問題にとどまらず、私たちの「医療費」や「健康のあり方」に直結する大きなテーマです。
薬価の上昇は患者の自己負担を増やすだけでなく、保険財政や医療制度全体に波及し、社会全体のコストを押し上げる可能性があります。
ただし、政策の運用次第では影響が限定的となる可能性もあり、製薬企業や政府の対応、そして国際的な交渉の行方が注目されます。
いずれにせよ、この動きは「医療は国境を越えたサプライチェーンに支えられている」という現実を改めて浮き彫りにしました。
今後、医薬品の価格や医療費がどう変わっていくのか、私たち一人ひとりが関心を持ち続けることが求められています。
KOY
当ブログ記事:インフルエンザワクチン、資産形成/IDECO



