外科医は手術中に何を考えているのか? ~患者さんが知らない舞台裏~

「手術中、外科医って何を考えているんだろう?」


患者さんやご家族から、よくそんな声を耳にします。


もしかすると「無心で黙々とメスを動かしている」と思われるかもしれません。


あるいは「何も考えずに手順どおりに進めているだけでは?」と想像する方もいるでしょう。

しかし実際の手術室では、外科医の頭の中は常にフル回転。


安全に進めるための工夫、次の一手の準備、そして患者さんの未来への想い――。


私たち外科医は、手を動かしながらも頭の中で多くのことを同時に考え続けています。

今回はそんな「外科医の頭の中」を個人的な意見として少しだけお見せしたいと思います。

安全第一

手術中に外科医が常に最優先に考えていること――それは「安全」です。


どんなに難しい手技であっても、まずは患者さんの命を守ることが最優先。

そもそも、手術前にたくさんの検査をしてもらってますが、その大きな理由の1つに安全に手術を行うためというものがあります。

手術の最中は、出血を最小限に抑えること、周囲の大切な臓器や血管を傷つけないことに細心の注意を払っています。

ほんの数ミリの差で結果が変わることもあるため、外科医は「この動きで本当に安全か?」と自問しながら手を進めています。

また、安全を守るのは外科医一人の力ではありません。助手や看護師、麻酔科医と連携し、患者さんの全身の状態や術野の状況を常に共有しながら進めています。

助手の先生の一言が危険を避けることにつながることも多々あります。

何事もそうですが、客観的に自分をみることが大事です。

車の運転と同じで、手術中は術者は比較的アドレナリンが出ている状態なのでいつもよりも周りが見えていません。

客観的に見てくれる助手という立場はとても大事です。さらに言うと、信頼できるパートナー、上司であるとより良いです。


また、「今、血圧は安定しているか」「出血量はどのくらいか」――こうした確認を絶えず繰り返すことで、リスクを早期に察知し、大きなトラブルを未然に防いでいます。

つまり、外科医の頭の中には常に「安全のチェックリスト」があり、それを一つずつ確かめながら進んでいるのです。

手順の確認

手術は、ただ順番通りに進めればよいというものではありません。


外科医は常に「何手先までの流れ」をイメージしながら行動しています。

まるで将棋やチェスのように、次にどの器具を使い、どの血管を処理し、どの組織を切離するか――頭の中では常に数手先を描きながら手を進めています。

手術の手順をチームで共有することはとても大事で、円滑な手術を行う鍵です。

それによって、患者さんにかかる時間や負担をできるだけ少なくすることが可能になります。

さらに重要なのは、「想定外のトラブル」を常に意識していることです。


例えば予想以上に出血が多かったとき、臓器の位置や状態が想定と異なったとき――その瞬間に考えていては遅すぎます。外科医はあらかじめ「もしこうなったら、次はこう動く」と複数の選択肢を頭の中に準備しながら手術を進めています。

つまり、手術中の外科医は一歩先どころか、何歩も先を読みつつ、同時に“別ルート”の地図も描いているのです。


これこそが、手術を安全に、確実に進めるための大切な思考習慣です。

チームとの連携

手術は、外科医一人の力で成り立つものではありません。

オペ室にいる全員がそれぞれの役割を果たし、互いに支え合うことで初めて安全で確実な手術が可能になります。

外科医は、助手や手術看護師、麻酔科医なるべく情報をやり取りするようにしています。


「次に必要な器具は何か」「患者さんの全身状態は安定しているか」――こうした確認がスムーズに行えるのは、チームの信頼関係があってこそです。

また、術者が言葉にしなくても、助手が次の動きを読み取って動いてくれる場面も少なくありません。

これは、普段からの経験の積み重ねやチームワークによるものです。まさに「阿吽の呼吸」といえるでしょう。

一方で、万が一のトラブルが発生したときも、チームの力が不可欠です。

出血や合併症のリスクに直面した際、術者が冷静に判断し、チーム全体が一丸となって対応することで、大きな危機を回避できるのです。

手術は「孤独な闘い」ではなく「仲間との協奏曲」。外科医は、その中心で全体をまとめ上げる指揮者のような存在です。

患者さんへの想い

手術中、外科医の頭の中は安全や手順でいっぱいですが、その根底にはやはり「目の前の患者さんがどうなるか」という想いがあります。

正直に言えば、手術は決して万能ではありません。


どんなに準備をしても、予期せぬトラブルや合併症のリスクはゼロにはできません。


「絶対に大丈夫です」と断言できないからこそ、外科医はいつも慎重で、どこか不安を抱えながら手術に臨んでいます。

経験や勉強してきたことを良い意味で淡々と施行して手術を行う時もあれば、

「良い手術をするぞ」活き込んで手術することもあります。

「絶対」はありませんが、患者さん術後問題なく退院まで過ごすために頑張ろうという気持ちを抱いています。

手術室の裏側

手術室と聞くと、ピリピリと張りつめた空気を想像する方が多いかもしれません。

実際、緊張感が必要な場面は多くありますが、常に張り詰めているわけではありません。

時には助手や看護師と、たわいもない話をすることもあります。


「昨日のテレビを見た?」「この後の天気はどうかな」――そんな何気ない会話が交わされることも少なくありません。

手術が長時間に及ぶときには、笑い話が緊張を和らげ、チーム全体の集中力を保つ助けにもなります。

ただし、外科医の目は決して手術の視野から外れることはありません。


会話や冗談はあくまで「適度に」。


集中を切らさず、むしろリズムを保つための工夫の一つでもあります。

つまり、手術室は「命を預かる真剣な場」であると同時に、「人間らしさが息づく場」でもあるのです。


表からは見えないそんな裏側を知ると、手術室の雰囲気を少し身近に感じてもらえるかもしれません。

最後に

色々書きましたが、他の職と同じで手術室にはいろんな先生がいます。

・雰囲気よく手術する先生

・無駄話せず黙々と手術する先生

・普段やさしいのに手術になると厳しくなる先生

・何かあるとそれを下の責任にする先生

・好きな音楽を流しながら手術する先生

・女性看護師さんと話す時は笑顔になる先生

今は時代的にやさしい先生が多くなったと思いますが、昔は厳しい医師が多かったと聞きます。

パワハラよりの先生も多かったのではないでしょうか。

手術は患者様の期待や命を預かる治療で、スタッフにも目にみえないところでストレスがかかっていると思います。

いつもよりイライラしやすい、思い通りにいかないと周りが見えなくなってくる。

そのようなことは多々あります。

緊張と緩和、そのバランスこそが良い手術につながります。

色々言いましたが、手術を予定通り施行することにかわりありません。

手術中について、手術室の裏側について個人的な考えを書きはしましたが、医師も人間なんだなと少し親近感を感じてもらえれば幸いです。

KOY

当ブログ記事:アニサキスコロナ/ニンバス株

他サイト:レバウェル看護