
夜中に突然、お腹の痛みで目が覚めたことはありませんか?
「これって放っておいて大丈夫かな…」
「救急外来に行くべき?それとも朝まで我慢して平気?」
真っ暗な夜中、強い痛みや不安に襲われると、冷静な判断が難しくなるものです。
実は、腹痛には 一晩様子をみても良いケース と すぐに病院へ行くべき危険なサイン が存在します。
この記事では、医師の視点から「夜中の腹痛にどう対応すべきか」をわかりやすく解説します。
自宅でできる応急処置や、救急外来を受診すべき判断の目安を知っておくことで、不安な夜を少しでも安心して乗り切れるようになりますよ。


第1章:夜中に腹痛が出るよくある原因

夜中の腹痛と聞くと「大きな病気では?」と心配になりますが、実際には比較的よくある原因で起こることも少なくありません。代表的なものを紹介します。
消化不良・暴飲暴食
夕食を食べ過ぎたり、脂っこいものやお酒を多く摂った日は、消化が追いつかず夜中に胃や腸が悲鳴をあげることがあります。特に寝る直前の食事は、消化器官に大きな負担をかけ、腹痛や胃もたれの原因となります。
胃腸炎(嘔吐や下痢を伴うことが多い)
ウイルスや細菌によって胃腸炎を起こすと、夜中に突然の腹痛で目が覚めることもあります。嘔吐や下痢、発熱を伴うことが多く、数時間で家族にも同じ症状が出ることもあります。
便秘やガス
便秘が続いている場合や、ガスが溜まった場合にも腹痛は起こります。お腹が張った感じが強く、ゴロゴロと音がすることも特徴です。命に関わるものではないことが多いですが、痛みが強い場合には注意が必要です。
ストレスや自律神経の乱れ
精神的なストレスや生活リズムの乱れも腹痛の原因になります。特に夜間は副交感神経が優位になるため、腸の動きが活発になり、それが痛みや違和感として現れることもあります。


第2章:危険なサインを見逃さない

一方で、夜中の腹痛には「すぐに受診すべき」重大な病気が隠れていることもあります。以下のような症状があれば、救急外来の受診をためらわないでください。
強い痛みが続く
体を動かせないほどの強い痛みや、波のように繰り返す痛みは要注意です。虫垂炎、腸閉塞、胆石発作など緊急対応が必要な病気の可能性があります。
冷や汗、顔面蒼白、吐き気・嘔吐
ただの胃腸炎と思っていたら、実は腹部の血流障害や急性膵炎など重症のケースもあります。冷や汗をかいたり、顔色が悪くなるほどの症状は軽視できません。
発熱や下血
熱が出ている場合は感染症の可能性、血便や黒色便が出ている場合は消化管出血の可能性があります。特に黒い便(タール便)は胃や十二指腸からの出血を示すことがあり、危険信号です。
お腹を触ると硬い
お腹全体が板のように硬く感じられる場合は「腹膜炎」の可能性があり、緊急手術が必要になることもあります。
既往歴(手術後、胆石や虫垂炎など)
過去にお腹の手術を受けている人は腸閉塞を起こしやすく、胆石や虫垂炎の既往がある人は再発や合併症のリスクがあります。その場合は軽い腹痛でも注意が必要です。
危険なサイン一覧(救急受診を考えるべき症状)
危険なサイン | 考えられる原因・背景 | 注意点 |
---|---|---|
強い痛みが続く | 虫垂炎、腸閉塞、胆石発作など | 動けないほどの痛みや波のある痛みは要注意 |
冷や汗・顔面蒼白・吐き気・嘔吐 | 腹部血流障害、急性膵炎、重症感染症など | 胃腸炎と区別しにくいが重症化のサイン |
発熱や下血(黒色便を含む) | 感染症、消化管出血 | 特に黒色便(タール便)は胃・十二指腸出血の可能性 |
お腹を触ると硬い | 腹膜炎 | 緊急手術が必要になることもある危険な状態 |
既往歴あり(手術後、胆石、虫垂炎など) | 腸閉塞、再発リスク | 軽い痛みでも重症化の可能性あり、早めの受診を推奨 |


第3章:自宅でできる応急対応
夜中に腹痛が起きても、必ずしもすぐに救急外来へ行く必要があるとは限りません。危険なサインがなければ、まずは自宅でできる応急対応を試してみましょう。
水分を少しずつ摂る
嘔吐や下痢があるときは、脱水症状を防ぐために水分補給が大切です。ただし、一度にたくさん飲むと逆に吐き気を悪化させることがあるので、少量をこまめに摂るのがポイントです。
楽な姿勢で安静にする
膝を軽く曲げて横になると、お腹の緊張が和らぐことがあります。無理に動いたり我慢して活動するよりも、まずは体を休めることが大切です。
お腹を温める/冷やす
便秘やガスが原因の腹痛では、お腹を温めることで腸の動きが整い、痛みが和らぐことがあります。一方で「急に強く痛み出した場合」は、温めず安静を優先してください。
食事は控える
痛みが強いときに無理に食べると、消化器にさらに負担をかけてしまいます。夜中の腹痛時には無理に食べず、胃腸を休ませましょう。
市販薬の使用は慎重に
整腸剤や胃薬で改善することもありますが、ケースバイケースです。
痛み止めは使用して良いですが、時間がたっても治らない場合は必ず病院へ行きましょう。
またロキソニンは胃潰瘍のリスクがあるので、胃潰瘍を疑う場合はカロナールにしましょう。


第4章:受診の目安
夜中に腹痛が起きると「病院へ行くべきか、朝まで待っていいのか」と迷うものです。ここでは、受診を検討すべき具体的な目安を紹介します。
我慢できない強い痛み
横になっても治まらない、体を動かせないほどの痛みは危険信号です。虫垂炎や腸閉塞、胆石発作など、放置すると命に関わる病気の可能性があります。
繰り返す嘔吐
吐いても楽にならず何度も繰り返す場合は、脱水や腸閉塞などのリスクがあります。水分が摂れないとあっという間に体調が悪化するため、早めの受診が必要です。
血便・黒色便
鮮血が混じる便や黒いタール状の便は、消化管出血のサインです。自己判断で様子を見るのは危険で、速やかな医療機関受診が望まれます。
発熱を伴う場合
発熱を伴う腹痛は、感染症や炎症が背景にある可能性があります。特に高熱の場合は重症化する恐れがあり、注意が必要です。
高齢者・持病のある方
高齢者や糖尿病・心疾患などの持病がある方は、症状が軽くても急変しやすい傾向があります。「少し変だな」と感じたら、早めの受診をおすすめします。
迷ったら相談窓口へ
判断に迷う場合は、各自治体で利用できる #7119(救急安心センター) のような電話相談窓口を利用するのも一つの方法です。看護師や医師が症状を聞き取り、受診の必要性をアドバイスしてくれます


最後に・・・
夜中の腹痛は、ちょっとした消化不良や便秘のこともあれば、命に関わる病気のサインであることもあります。
大切なのは、「危険なサインを見逃さないこと」 です。
強い痛みが続く、嘔吐や発熱を伴う、血の混じった便が出る――こうした症状があれば、ためらわずに救急外来を受診してください。
少し血が付くくらいなら翌日の日中でいいです。
一方で、軽い症状であれば水分を摂って安静にし、朝まで様子を見ることも可能です。
「夜だから…」と我慢するのではなく、必要なときにはすぐに医療を頼ることがあなたの命を守ります。
この記事が、万が一のときに落ち着いて行動するための一助となれば幸いです。
夜中の相談先の電話番号を控えておくのは良いかもしれませんね。
KOY
当ブログ他記事:消化器外科医/サーフィン事故・死亡



