
近年、がん治療は「一律の治療」から「患者さん一人ひとりに合わせた治療」へと大きく変化しています。
その流れの中心にあるのが「遺伝子パネル検査」です。
従来は、がんの種類や進行度に応じて標準治療を選ぶのが一般的でした。
しかし、同じ種類のがんでも、人によって効く薬や効果の出やすさは異なります。
遺伝子パネル検査では、がん細胞の遺伝子を詳しく調べ、効果が期待できる薬や臨床試験の候補を探すことができます。
つまり、この検査は「あなたのがん」に最適な治療法を個別に見つけるための羅針盤のような存在です。

遺伝子パネル検査とは?

遺伝子パネル検査とは、がん細胞の遺伝子の設計図(DNA)をまとめて調べる検査です。
がんは、細胞の遺伝子に変化(変異)が起こることで発生します。その変異がどの部分に起きているかを知ることで、効果が期待できる治療薬や臨床試験の情報につながります。
この検査では、1つの遺伝子だけでなく、50種類から多いものでは400種類以上の遺伝子を一度に解析できます。
解析方法としては、次世代シーケンサー(NGS)という最新の遺伝子解析装置を使い、腫瘍組織や血液から抽出したDNAを詳細に調べます。
従来は、特定の薬が効くかどうかを調べるために1つの遺伝子を個別に検査する方法が主流でした。
しかし、単一遺伝子検査では時間や費用がかかり、複数の遺伝子変異を一度に把握することはできません。
遺伝子パネル検査なら、一度の検査で多くの遺伝子変異を同時に調べられるため、
- 治療薬の選択肢を広げる
- 希少がんや治療抵抗性がんの新しい治療法の手がかりになる
といった大きなメリットがあります。

検査でわかること

遺伝子パネル検査を受けると、がん細胞にどの
ような遺伝子変異があるのかが明らかになります。そこから、主に次の3つの情報が得られます。
- 治療標的となる遺伝子変異
特定の遺伝子変異が見つかると、その変異に作用する分子標的薬が使用できる可能性があります。たとえば、肺がんのEGFR遺伝子変異や乳がんのHER2遺伝子増幅などは、有効な治療薬がすでに存在しています。 - 遺伝性腫瘍の可能性
一部の遺伝子変異は、生まれつき体に持っている場合があります。これを「生殖細胞系列変異」といい、家族にも同じ変異を持つ可能性があります。この場合、患者さんご本人だけでなく、ご家族の健康管理にも役立つ情報になります。 - まだ治療法が確立していない変異も検出されること
中には、現時点では治療法がない、または有効性が不明な遺伝子変異も見つかります。しかし、この情報は将来の新薬開発や臨床試験参加のきっかけになることがあります。
このように、遺伝子パネル検査は「今すぐの治療選択」だけでなく、「将来の治療の可能性」を広げるヒントにもなる検査です。

検査の流れ

遺伝子パネル検査は、以下のような流れで行われます。
- 検査対象の準備
がんの遺伝子情報を調べるために、主に手術や生検で採取した腫瘍の組織を使用します。場合によっては、血液中に流れる腫瘍由来のDNA(ctDNA)を採取して検査することもあります。 - 解析の実施
採取した検体からDNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)という装置で数十〜数百種類の遺伝子を一度に解析します。この工程で、がん細胞にどのような遺伝子変異があるのかを詳しく調べます。 - 結果の報告
解析結果は、遺伝カウンセリングや専門医による説明とともに患者さんへ報告されます。結果には、治療薬の候補、臨床試験情報、遺伝性腫瘍の可能性などが記載されます。 - 結果が出るまでの期間
検体採取から解析、報告までにはおおよそ2〜4週間かかります。症例によっては、さらに時間がかかることもあります。

保険適用と費用

遺伝子パネル検査は、高度な解析を必要とするため費用が高額ですが、日本では一部条件を満たす場合に公的医療保険が適用されます。
保険適用の条件(2025年時点)
- 実施施設:国が指定する「がんゲノム医療中核拠点病院」や「連携病院」で行うこと
- 対象となる患者:
- 標準治療が終了、または効果が期待できない場合
- 原発不明がんや希少がんなど、治療方針の決定が難しい場合
- 実施回数:原則1回限り
これらの条件を満たせば、公的医療保険(3割負担の場合)で自己負担は約10万円前後になります。
自費の場合
保険が適用されないケース(条件を満たさない、または自由診療を選択する場合)では、40〜60万円程度かかるのが一般的です。施設や検査の種類によってはさらに高額になる場合もあります。


検査を受ける前に知っておきたいこと

遺伝子パネル検査は、がん治療の可能性を広げる有力な手段ですが、受ける前に次のような点を理解しておくことが大切です。
- 必ずしも治療薬が見つかるとは限らない
検査で遺伝子変異が見つかっても、それに対応する治療薬がすでに承認されているとは限りません。現時点では治療薬がない変異や、有効性が不明な変異も多く存在します。 - 臨床試験情報が得られる可能性
治療薬がない場合でも、臨床試験(治験)の対象となる可能性があります。臨床試験に参加することで、新しい治療法をいち早く受けられる場合もあります。 - 遺伝性腫瘍の可能性が見つかることがある
一部の遺伝子変異は、生まれつき持っている遺伝性のものかもしれません。この場合、ご家族も同じ変異を持つ可能性があり、カウンセリングや追加検査が勧められることがあります。

医療の遺伝子パネル検査と市販の遺伝子検査の違い
最近は、薬局やインターネットでも「遺伝子検査キット」が販売されるようになりました。唾液や頬の粘膜を採取して、体質や病気のリスク、ダイエットや運動の適性などを調べるという商品です。
しかし、医療で行う遺伝子パネル検査とは、目的も方法も大きく異なります。
1. 目的の違い
- 医療の遺伝子パネル検査:がん細胞の遺伝子変異を調べ、治療薬の選択や臨床試験参加の可否を判断する。
- 市販の遺伝子検査:体質傾向や生活習慣改善の参考情報を得るための検査(診断や治療のためではない)。
2. 検査対象の違い
- 医療検査:がんの腫瘍組織や血液から抽出したDNA(腫瘍由来DNA)
- 市販検査:唾液や頬の粘膜(主に生まれつき持っているDNA情報)
3. 精度と解析内容の違い
- 医療検査:次世代シーケンサー(NGS)を用い、数十〜数百種類の遺伝子変異を高精度で解析。
- 市販検査:特定のDNAマーカーを調べ、統計的に関連があるとされる体質や傾向を推定する。
4. 結果の活用方法
- 医療検査:主治医や遺伝カウンセラーが説明し、治療方針の決定に活用する。
- 市販検査:医療機関での診断や治療には使えず、生活習慣改善の参考にとどまる。
普段の生活でも遺伝子検査を行えるようになっていて、より身近な存在になっていることが分かります。
一度試してみるのも面白いと思います。
サイトをいくつか紹介するので、是非試してみてください!!



最後に…
遺伝子パネル検査は、がん治療の新しい選択肢を見つけるための強力なツールです。
一度の検査で多くの遺伝子変異を調べられ、治療薬や臨床試験の情報、さらには将来の治療の可能性まで見えてきます。
しかし、必ずしも今すぐ有効な薬が見つかるとは限らず、費用や保険適用の条件、遺伝性の可能性なども含め、検査の意味をしっかり理解して受けることが大切です。
もし検査を検討している場合は、主治医やがんゲノム医療の専門医と十分に相談し、自分にとって必要かどうかを判断しましょう。
そして、得られた情報は治療方針だけでなく、今後の生活や家族の健康管理にも役立つ可能性があります。
がんとの向き合い方は人それぞれですが、この検査があなたや大切な人の「次の一歩」を見つけるきっかけになることを願っています。
KOY
当ブログ記事:睡眠薬(薬物療法) 、不眠(生活改善法)、iPS細胞

