お尻で呼吸!? 笑って学べる“イグノーベル賞” ~最新ニュース~

「お尻で呼吸する」


——そう聞いて、思わず笑ってしまった方も多いのではないでしょうか。

実はこの一見ふざけたような研究が、世界的に注目される イグノーベル賞 を受賞しました。イグノーベル賞は、「人を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるユニークな賞として知られています。

今回話題になった研究も、タイトルだけ見れば冗談のよう。しかし中身を知ると、「なるほど、確かに面白い」「発想としては真剣だ」と感じさせられるものです。


科学や医学の世界では、こうした 常識の外側 から生まれる発見が、思わぬブレイクスルーにつながることも少なくありません。

この記事では、ニュースでも取り上げられた イグノーベル賞の受賞研究 を紹介しながら、
「なぜこの研究が評価されたのか?」
「笑いの裏にある“まじめな科学”とは何か?」
を、できるだけわかりやすく解説していきます。

「くだらない」で終わらせるか、「面白い」に変えられるか。
その分かれ道を、少しのぞいてみましょう。

ニュース:常識覆す「お尻から呼吸」の新治療 イグ・ノーベル受賞チームの挑戦

 哺乳類は肺を通じて空気中の酸素を取り込み、不要な二酸化炭素を体外へと出す肺呼吸をする。この常識を覆す研究が進められている。

 「お尻」から呼吸する「腸換気法」だ。

 「臨床試験の第1相(第1段階)が問題なく終わって、論文として形にできた。今は安堵(あんど)しています」

 東京科学大総合研究院ヒト生物学研究ユニット教授で、大阪大大学院医学系研究科教授でもある武部貴則さん(再生医学)は笑顔をのぞかせる。

 武部さんらの研究チームは、消化管(大腸)を介して体内に酸素を取り込ませる腸換気法を世界で初めて人に適用する臨床第1相試験を実施し、その結果を2025年10月に公表した。

 試験では、健康な成人男性27人をグループに分け、酸素を大量に溶かすことができ、目の手術などに使われる液体「パーフルオロデカリン(PFD)」を異なる用量で投与。1時間後に排せつしてもらった。

 すると膨満感や便意、腹痛といった軽い有害事象が見られたものの、一過性で自然に消滅した。また、PFDは体内には吸収されないことも分かった。

 今回はPFDを腸から投与しても健康に支障がなく、どのくらいの用量だと問題ないかなどを調べた。PFDに酸素を付加するのはこの先の研究となる。

ドジョウから着想

 「ドジョウは低酸素環境下では腸を介して呼吸する」。武部さんはこの仕組みに着想を得て、重症呼吸不全の治療に役立てるべく、腸換気法の開発を始めた。

 まずは呼吸不全のブタやマウスに対し、多量の酸素を溶かし込んだ液体を尻から投与すると血中の酸素が増えることを実験で示し、21年に発表した。

 そこからわずか数年。安全性が確立している薬剤や手法をうまく組み合わせ、人での臨床試験にこぎつけた。

そもそもイグノーベル賞とは?

イグノーベル賞とは、「人を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られる賞です。


名前からも分かるように、世界的に有名なノーベル賞を少しもじった存在ですが、決して“バカにした賞”ではありません。

毎年、世界中の研究者による
「え、それ研究するの?」


と思ってしまうようなテーマの中から、

科学的にきちんと検証され、独創性の高い研究 が選ばれます。

特徴的なのは、その評価基準。

✔ まず笑えること
✔ でも、よく考えると意味があること
✔ 常識を疑う視点を持っていること

この3つがそろっている研究こそが、イグノーベル賞の対象になります。

実際、授賞式には本物のノーベル賞受賞者が参加し、受賞者に賞を手渡すのも恒例です。
ステージでは紙飛行機が飛び交い、ユーモア満載の雰囲気ですが、根底にあるのは「科学をもっと自由に、もっと楽しく」という強いメッセージです。

医学や生物学の分野でも、
「そんな発想あり?」
という研究が、のちに新しい治療法や技術のヒントになることがあります。

一見ムダに見える研究や、真面目すぎない問い。
それらを切り捨てず、価値として認める――
それがイグノーベル賞の最大の意義なのです。

過去のイグノーベル賞受賞研究 ― 思わず笑ってしまう名研究たち

イグノーベル賞の魅力は、何といっても「その発想、どこから来た?」と思わず突っ込みたくなる研究の数々です。
ここでは、過去に実際に受賞した“おもしろいけれど、よく考えると奥が深い”研究をいくつか紹介します。

■ シマウマ模様にした牛は、ハエに刺されにくい?

ある日本人研究者は、「牛にシマウマ柄の模様を描くと、吸血するハエが減るのではないか?」という研究を行いました。
一見すると冗談のようですが、結果は 本当にハエが寄りにくくなった のです。

農薬を使わずに害虫被害を減らせる可能性があり、環境負荷の低い畜産への応用が期待される研究でした。

■ ワニにヘリウムを吸わせると声は変わるのか?

「ヘリウムを吸うと声が高くなる」ことは人間では有名ですが、
では ワニがヘリウムを吸ったらどうなるのか?

研究者はこの疑問を本気で検証し、ワニの鳴き声が変化することを示しました。
この研究は、動物の発声メカニズムや音の共鳴構造を理解するうえで重要な知見をもたらしています。

■ 人はどれくらいバナナの皮で滑るのか?

漫画やアニメではおなじみの「バナナの皮で滑る」シーン。
これを 摩擦係数という物理学的視点から本気で測定 した研究も、イグノーベル賞を受賞しています。

結果は、バナナの皮は非常に滑りやすく、実際に転倒リスクが高いというもの。
転倒事故の予防や安全対策の研究にもつながる、意外と実用的な研究でした。

■ 人はなぜ“くしゃみをするときに目を閉じる”のか?

「くしゃみをするとき、なぜか目を閉じてしまう」
多くの人が経験するこの現象も、立派な研究対象です。

神経反射や脳の制御機構を調べることで、人間の無意識の行動パターンを理解する手がかりとなりました。

■ 笑える研究は、ムダなのか?

これらの研究に共通しているのは、「日常の素朴な疑問を、本気で調べている」点です。
イグノーベル賞は、こうした 見過ごされがちな疑問に光を当てる場 とも言えます。

過去のイグノーベル賞・おもしろ研究まとめ過去のイグノーベル賞・おもしろ研究(受賞年統一)

受賞年分野研究内容(要約)
2025生物学牛をシマウマ模様にすると吸血ハエが減る
2020音響学ワニにヘリウムを吸わせたときの鳴き声変化
2014物理学バナナの皮の摩擦係数を測定
2015生理学人がくしゃみで目を閉じる理由
2016知覚科学鏡に映った自分の顔はどれくらい信用できるか
2017解剖学高齢者の耳は年齢とともに本当に大きくなるのか
2018医学ジェットコースターは腎結石の排出を助けるか
2021昆虫学ガムを噛むと虫刺されは減るのか
2022工学人間の歩き方を使った新しい運動効率解析
2023栄養学食事中の姿勢が味の感じ方に与える影響

まとめ:笑いの先に、科学の本質がある

イグノーベル賞の研究は、最初に聞いたときは思わず笑ってしまうものばかりです。
「牛をシマウマ模様にする」「お尻で呼吸する」「バナナの皮で滑るか確かめる」――
どれも一見すると、冗談のように思えるかもしれません。

しかし、その裏側には
「本当にそうなのか?」
「なぜそうなるのか?」
という、科学の原点ともいえる素朴で真剣な問いがあります。

医学や科学の進歩は、必ずしも最初から“立派なテーマ”から生まれるわけではありません。
日常の違和感や、誰も気に留めなかった疑問を掘り下げることで、新しい発見や発想が生まれてきました。

イグノーベル賞は、「役に立つ研究」だけでなく、
「考える価値のある研究」
「発想の自由を守る研究」
を称える賞とも言えるでしょう。

笑って終わりにするか、
「なるほど」と一歩立ち止まって考えるか。

その小さな違いが、科学を前に進める力になるのかもしれません。

来年のイグノーベル賞では、どんな“バカバカしくて真面目な研究”が登場するのか。
少し楽しみにしながら、日常の中の「なぜ?」を大切にしていきたいですね。

KOY

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