インフルエンザになったら予定手術は中止にすべき!? ~外科医の目で語る~

冬の外来で、よくこんな相談を受けます。


「先生…インフルエンザになっちゃったんですけど、手術どうしたらいいですか?」

実はこれ、患者さん本人はもちろん、ご家族にとっても大きな不安のタネ。


そして医療者側からしても、軽く判断できる問題ではありません。


発熱、咳、全身倦怠感──インフルエンザがもたらす症状は、手術や麻酔に影響しうるものばかりだからです。

予定手術はできるだけスムーズに行いたい。


でも、無理をしてしまえば術後の合併症リスクが上がってしまう可能性もある。


この“バランス取り”が、じつは外科医にとってかなり大事なポイントなんです。

そこで今回は、「インフルエンザになったら、手術は中止すべきなのか?」


外科医の視点から、患者さんが気になる疑問にわかりやすくお答えします。

記事の要点まとめ表

項目要点
インフルエンザと手術の関係発熱・咳・倦怠感・免疫低下が麻酔や術後に悪影響を及ぼすため、慎重な判断が必要
延期すべきケース38℃以上の発熱、強い咳・痰、強い倦怠感、炎症反応高値、基礎疾患が重い場合
予定通り行う場合があるケース症状軽快、解熱後数日経過、咳ほぼ消失、血液データ正常、緊急度の高い手術など
医療現場での難しい判断解熱直後・軽度症状のケースは外科医・麻酔科医の総合判断で決定
患者さんができる対策手洗い・マスク・予防策徹底、家族内感染予防、体調不良は遠慮なく早めに連絡
メッセージ延期は悪いことではなく“安全のための前向きな選択”。ベストな状態で手術を受けることが大切

第1章:インフルエンザと手術のリスクとは?

インフルエンザは「ただの風邪とは違う」とよく言われますが、外科医・麻酔科医の立場から見てもその通りです。
特に手術を控えている患者さんにとっては、インフルエンザの影響は決して軽視できません。
では、どんな点が手術リスクを上げてしまうのでしょうか。

① 発熱・全身倦怠感による“麻酔リスクの上昇”

インフルエンザでは、高熱や強い倦怠感がよく見られます。
これらはそれ自体がつらいだけでなく、麻酔導入や術中管理を不安定にさせる要因になります。

  • 発熱 → 脱水気味になり血圧変動が大きくなる
  • 全身衰弱 → 術後の回復が遅れる
  • 心拍数上昇 → 既往疾患があると負担が大きい

外科医としても、患者さんの“身体の余力”が落ちている状態での手術は避けたいところです。

② 咳・痰などの呼吸器症状が麻酔管理に影響

インフルエンザで厄介なのが、咳・痰・喉の痛みといった呼吸器症状
手術中は人工呼吸器を使って呼吸管理を行うため、気道が炎症で荒れているとトラブルが起きやすくなります。

  • 咳が強い → 術後の疼痛管理にも影響
  • 気道過敏 → 気管挿管が難しくなる
  • 痰が多い → 肺炎や無気肺など術後合併症のリスクが上昇

麻酔科の先生たちも、この部分は特に慎重に評価します。

③ 免疫力低下で“術後感染リスクが増える”

インフルエンザそのものがウイルス感染です。
体はウイルスと戦っている最中で、免疫機能はフル稼働状態
そんなときに手術という大きなストレスが加わると、免疫バランスが崩れやすくなり、

  • 創感染
  • 肺炎
  • 尿路感染
  • 術後の回復遅延

といった合併症が増える可能性があります。

外科医としては、術後感染は何より避けたい。
そのため、患者さんの“免疫状態”は術前判断で大きなポイントになります。

④ 脱水や食欲低下が術後に影響することも

インフルエンザでは水分摂取が不足しやすく、軽い脱水状態になっていることも多いです。
さらに食欲が落ちることで栄養状態が低下し、手術の傷の治りが悪くなることも。

  • 脱水 → 術中の血圧低下リスク
  • 栄養不足 → 創傷治癒の遅れ
  • 全身状態の低下 → 術後合併症の増加

「その人がどれだけ手術に耐えられる状態なのか」──
これも外科医がしっかり見極めるべき点です。

まとめ:インフルエンザは“軽症でも手術に影響しうる”

インフルエンザは身体に広範囲の影響を与えるため、
たとえ軽症に見えても、手術・麻酔にとっては要注意の状態です。

だからこそ、外科医は慎重に、丁寧に判断します。
「ただ熱が下がったからOK!」とはいかない理由は、ここにあります。

第2章:実際、いつなら手術可能?〜最新の臨床的な判断基準〜

インフルエンザが治りかけのとき、
「熱は下がったけど、手術はもう受けられますか?」
という質問を本当によくいただきます。

手術が延期になるのは誰にとってもストレスですよね。
だからこそ、外科医・麻酔科医は“安全に手術できるタイミング”を慎重に見極めます。
では、実際の現場ではどう判断しているのでしょうか?

① 一般的な目安:発熱がなくなってから数日あける

目安としてよく使われるのが、
**「解熱後 2〜3日程度はあける」**という基準です。

  • 発熱が落ち着く = 体内の炎症が改善傾向
  • 倦怠感や関節痛が軽快している
  • 水分・食事が十分にとれる

これらが揃ってくると、手術への耐性も戻ってきます。

ただし、これはあくまで“一般的な目安”。
手術の種類、患者さんの年齢や基礎疾患によって調整が必要です。

② 咳や痰が強い場合は、さらに注意が必要

解熱していても、咳や痰が残っている時点で麻酔リスクはまだ高めです。

手術中は人工呼吸器に管理を任せるため、気道の状態はとても重要。
そのため、

  • 咳がほぼ消えていること
  • 痰が減ってきていること
  • 呼吸状態が安定していること

この3つをクリアしているかが、手術再開のポイントになります。

③ 血液検査(炎症反応)も重要な判断材料

外科医や麻酔科医がもうひとつ重視するのが CRPや白血球数 といった炎症マーカー。

  • CRPが高い → 体内の炎症が続いている
  • 白血球増加 → 感染が完全に落ち着いていない可能性
  • リンパ球の低下 → 免疫力がまだ回復途中

炎症反応が落ち着いているほど、麻酔・手術の安全性は高まります。

④ 全身倦怠感が取れているかも意外と大切

患者さん本人が感じる
「まだしんどい…」
という主観も侮れません。

全身倦怠感は、体が“まだ回復途中”であるサインのひとつ。
実際、倦怠感が残った状態で手術を行うと回復が遅くなることがあります。

外科医が問診で細かくこの点を聞くのはこのためです。

⑤ 外科医が実際に見ているポイント(リアル目線)

ここ、こーや先生にこそ共感していただける部分ですが(笑)
現場の外科医は次のような“ちょっとしたサイン”も見ています。

  • 顔色
  • 受け答えのスムーズさ
  • 呼吸の深さ
  • 歩いた時の疲れやすさ
  • 食事の入り具合
  • 少し動いた時の息切れの有無

こういう“臨床の空気感”は数値では表せませんが、非常に大きな判断材料になっています。

⑥ 子ども・高齢者・持病がある方はより慎重に

とくに下の方々は回復まで時間がかかりやすいので、
手術再開のタイミングは慎重に判断します。

  • 子ども:気道過敏が残りやすい
  • 高齢者:脱水や栄養低下が起こりやすい
  • 糖尿病や心疾患のある方:術後合併症リスクが上がりやすい

1〜2日でOKとは言いにくく、数日〜1週間あけることもあります。

まとめ:症状・データ・全身状態の“3点セット”で判断

インフルエンザ後の手術可否は、
「症状が取れた」 × 「炎症反応が落ち着いた」 × 「全身状態が回復している」
の3つが揃って初めて“安全域”に入ります。

焦らなくても大丈夫。
ベストな状態で手術を受けることが、結果的に一番安全で、術後の回復もスムーズです。

第3章:延期した方がいいケース、逆に予定通り行うケース

インフルエンザにかかったとき、
「手術は延期すべき?」
「それとも予定通りで大丈夫?」

この判断は、患者さんの安全を最優先にしつつ、手術の緊急度や全身状態を総合的に見て決められます。

ここでは、外科医が実際に“延期するケース”と“予定通りに行うケース”をわかりやすく紹介します。

① 延期すべきケース

以下の状況では、ほぼ確実に“延期”が妥当です。
外科医・麻酔科医も迷わず慎重モードに入ります。

● 38℃以上の発熱が続いている

まだ体がウイルスと fighting(戦闘中)な状態。
炎症・脱水・心拍数増加など、麻酔のリスクが高すぎます。

● 咳が強い・痰が多い・呼吸器症状が顕著

  • 気道が荒れている
  • 挿管時にトラブルが起きやすい
  • 術後肺炎のリスクが上昇

麻酔科の先生は“ここ”を特に重視します。

● 全身倦怠感が強く、活動度が落ちている

これは外科医がものすごく気にするポイント。
倦怠感が残っていると、術後の回復が明らかに遅くなります。

● 炎症反応(CRP・白血球数)が高い

血液データが炎症の残存を示している場合、手術は基本NG。
身体の中ではまだ治っていません。

● 高齢者・基礎疾患持ちで症状が重い

とくに

  • 糖尿病
  • 心疾患
  • COPD
    のある方は、術後合併症のリスクが跳ね上がります。

② 予定通り行う場合があるケース

逆に、インフルエンザといっても無理に延期しなくても良いケースもあります。

● 症状がほぼ消失している軽症例

  • 解熱から数日が経過
  • 咳・痰もほぼない
  • 倦怠感なし
  • 食事・水分がしっかりとれる

この状態で、血液データも問題なければ“予定通りGO”となることがあります。

● 手術の緊急度が高いケース

手術には“待っていいもの”と“待てないもの”があります。

  • 癌手術(治療のタイミングが極めて重要)
  • 閉塞・穿孔などを伴う消化器疾患
  • 進行すると予後が悪化する手術

こうしたケースでは、インフルエンザが軽快していれば多少リスクがあっても「行くべき」と判断されます。

● 麻酔科評価で「リスク許容範囲内」と判断された場合

術前診察で麻酔科医が全身状態を確認し、
「これなら安全に管理できる」
と判断すれば、手術は予定通り進むことがあります。

麻酔科の一言って、外科医から見ても頼りになりますよね(笑)

③ “延期 or 実行”は総合判断!患者さんを責める必要はゼロ

インフルエンザにかかったことで手術が延期になると、
患者さんは「迷惑をかけた」と感じてしまいがちですが…

それは全く気にしなくてOK!

むしろ、

  • 少しでも体調が悪いときに申告してくれた
  • 無理に予定通りを希望しなかった
    これは外科医にとって非常にありがたい対応です。

安全に手術を行うために、体調の自己申告は欠かせません。

まとめ:大切なのは“焦らないこと”

インフルエンザ後は、
状態が完全に回復してからの方が、手術も術後も圧倒的に安全。

延期になるのは決してマイナスではなく、むしろプラスの選択です。

第4章:外科医が実際に経験した“判断が難しい場面”

インフルエンザは、ただ症状があるかどうかだけで判断できないことがあります。
外科医として働いていると、「これは迷うな…」と感じる場面が少なからずあります。
ここでは、実際の臨床現場でよくある“判断が難しいケース”を紹介します。

① 術前日に発熱…検査でインフルエンザ陽性

これは外科医にとって、ある意味“冬のあるある”。
手術前日、患者さんから電話で
「先生、熱が出てしまって…」
と連絡が入り、来院して検査するとインフルエンザ。

→ 結論:ほぼ確実に延期

理由はシンプルで、

  • 発熱
  • 身体のだるさ
  • 食欲低下
    など、どれを取っても手術へのリスクが高い状態だからです。

患者さん本人は「せっかく準備したのに…」と申し訳なさそうにされますが、
ここは外科医として**「今延期することが、一番早い回復につながる」**としっかり伝えます。

② 解熱後1〜2日、症状は軽い…どうする?

ここが実は最も判断が難しいパターン。
解熱していて、咳も軽く、倦怠感もほぼない。
本人は元気そうに見える。

→ この場合、ケースバイケース

外科医・麻酔科医で相談しながら、次をチェックします。

  • バイタルが安定しているか
  • CRPや白血球数はどうか
  • 呼吸音に異常がないか
  • 咳をすると辛そうか
  • 動いたときの息切れは?

このあたりを総合して“ギリギリ判断”になることもあります。

ときには、
「手術の緊急度が高いから予定通り」
ということもあれば、
「あと1〜2日様子を見よう」
と延期することも。

医師側も本気で悩みながら最善のタイミングを探ります。

③ あえて予定通り行って良かったケース

忘れられないのが、
早期の癌手術を控えた患者さんが、軽いインフルエンザにかかったケース。

解熱後数日経ち、倦怠感はほぼ消失。
咳もごく軽度。
血液データも改善しており、全身状態は良好。

このケースでは麻酔科とも話し合い、
「これなら十分安全にいける」
という結論になり、予定通り手術を実施。

結果、術後の経過もとても良く、
「延期しなくて本当に良かった」と胸をなで下ろした経験です。

④ 患者さんと“話し合って”決めることの大切さ

手術は医療側だけが決めるものではありません。
患者さん自身の不安や希望も、とても大切な“判断材料”。

  • 「どうしても予定通りにしたい」
  • 「体調が本調子じゃなくて不安…」
  • 「家族のスケジュールが…」

こうした想いを聞きながら、
外科医・麻酔科医は医学的なリスク患者さんの生活背景を合わせて考えます。

つまり、
“医学的に安全” × “患者さんが納得できる”
この2つが揃って初めて、良い手術になります。

⑤ 迷ったときほどチームで判断する

外科医1人で決めるのではなく、

  • 外科チーム
  • 麻酔科医
  • 看護師
  • 手術室スタッフ

こうした多職種で相談しながら決定することがほとんど。

インフルエンザのような“グレーゾーン”の状況では、
チーム全体での目線合わせがとても重要になります。

まとめ:臨床現場は“白黒つけにくい”からこそ慎重に

インフルエンザと手術の判断は、
教科書的に割り切れない部分が多く、
外科医にとっても毎回気を使うテーマです。

しかし、だからこそ
患者さんと一緒に「最も安全なタイミング」を探す
という姿勢が大切になります。

まとめ:インフルエンザ×手術は“慎重さ”がいちばんの安心につながる

インフルエンザになったとき、
「手術ってどうなるの?」という不安は当然のこと。
でも大丈夫です。
大切なのは、焦らず・無理せず・ベストなタイミングで手術を受けること

インフルエンザは軽症でも、
発熱・咳・倦怠感・免疫低下など、手術や麻酔に影響する要素がたくさんあります。
だからこそ外科医や麻酔科医は、
症状・検査データ・全身状態を丁寧に見ながら慎重に判断します。

そして、延期になることがあったとしても、
それは“安全を守るための前向きな選択”。
決して悪いことではありませんし、むしろ賢明な判断です。

手術の成功は、
医療チームの判断 + 患者さん自身の体調管理
この二つがそろって初めて達成されます。

KOY

KOYブログ:KOYブログ:インフルエンザ流行10月インフルエンザワクチンについて秋のインフルエンザ情報

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