
首都高速を運転していると、なぜかやたらと目に入ってくる言葉があります。
「インプラント〇〇万円」「即日インプラント」「安心・安全」
最初は気のせいかと思っていましたが、一度意識すると、次から次へと看板が目に入ってきます。
私は消化器外科医として、日々手術に携わっています。ただ、正直に言えば歯科は専門外です。
それでも「骨に人工物を埋め込む」「手術である以上リスクがある」という点では、インプラント治療は決して無関係な話ではありません。
外科医の私ですが、インプラントについては恥ずかしながら無知です。

そこで今回は、
首都高でよく見かけるインプラントの広告をきっかけに、インプラント治療について調べてみた
そんな話を書いてみようと思います。
純粋にインプラントについてブログを書こうと思います。
「これからインプラントを考えている人が、冷静に判断する材料になれば」
そんな気持ちでまとめていきます。
第1章:そもそもインプラントって何?

「インプラント」と聞くと、
なんとなく高そう、手術が必要、ちょっと怖い
そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
では、インプラントとは一体どんな治療なのでしょうか。
インプラントは「人工の歯の根っこ」
インプラント治療を一言で言うと、
失った歯の代わりに、人工の歯の根をあごの骨に埋め込む治療です。
通常の歯は
- 歯の頭(見えている部分)
- 歯の根(骨の中に埋まっている部分)
この2つで成り立っています。
インプラントでは、
歯の根の代わりとしてチタン製のネジ状の部品をあごの骨に埋め込み、
その上に**土台(アバットメント)と被せ物(人工の歯)**を装着します。

つまり構造としては、
「見た目だけを補う治療」ではなく、根っこから作り直す治療と言えます。
第2章:なぜインプラント治療を選ぶ人が多いのか


歯を失ったとき、
「インプラントにしますか?」と聞かれても、
なぜそれを選ぶのか、すぐにはイメージしにくいかもしれません。
ここでは、
多くの人がインプラント治療を選ぶ理由を、順番に見ていきます。
理由① しっかり噛めるようになる
一番大きな理由は、
**「噛む力が自然に近い」**ことです。
入れ歯の場合、どうしても
- ずれる
- 外れそうになる
- 硬いものが噛みにくい
といった不安がつきまといます。
インプラントは、
あごの骨に直接固定されているため、
自分の歯に近い感覚で噛むことができます。
食事を「我慢する」必要がなくなる。
これは生活の満足度に大きく影響します。
理由② 見た目が自然
口元は、
人と話すとき、笑うとき、
意外とよく見られています。
インプラントの被せ物は、
色や形を周囲の歯に合わせて作るため、
見た目がとても自然です。
「歯がないことを気にせず笑える」
これも、治療を選ぶ大きな動機の一つです。
理由③ 周りの歯を守れる
ブリッジ治療では、
失った歯の両隣を削って支えにします。
健康な歯を削ることに、
抵抗を感じる方も少なくありません。
インプラントは
周囲の歯に頼らず、単独で成り立つ治療なので、
結果的に他の歯を守ることにつながります。
外科医の立場から見ても、
「できるだけ正常な組織を温存する」という考え方は、とても大切です。
理由④ 骨が痩せにくい
歯がなくなると、
その部分のあごの骨は少しずつ痩せていきます。
噛む刺激がなくなるからです。
インプラントは骨に力が伝わるため、
骨が痩せるのを抑える効果が期待できます。
これは見た目だけでなく、
将来的なお口の健康にも関わるポイントです。
それでも「万人向け」ではない
ここも正直に書いておきたいところです。
インプラントは優れた治療ですが、
- 骨の量が足りない
- 全身の持病がある
- メンテナンスが難しい
といった場合、慎重な判断が必要になります。
「良い治療」=「誰にでも最適な治療」
ではありません。
第3章:インプラントができない、または注意が必要な人

ここまでインプラントのメリットを紹介してきましたが、
大切なことを一つお伝えしなければなりません。
インプラントは、誰にでもできる治療ではありません。
これは欠点というより、
外科治療として当然の前提です。
① あごの骨が十分にない人
インプラントは
あごの骨に人工の歯の根を固定する治療です。
そのため、
骨の量や質が不足している場合、
インプラントが安定しません。
- 歯を失ってから長期間放置している
- 重度の歯周病がある
こうした場合、骨が痩せていることがあります。
骨を増やす治療(骨造成)で対応できることもありますが、
全ての人に適しているわけではありません。
② 全身の病気がある人
インプラントは口の中の治療ですが、
全身の健康状態と無関係ではありません。
特に注意が必要なのは、
- 糖尿病のコントロールが不十分な人
- 重い心臓・腎臓の病気がある人
- 免疫力が低下している人
こうした場合、
感染や治癒遅延のリスクが高くなります。
外科医の感覚としても、
「全身状態の評価」は手術の基本中の基本です。
③ 喫煙習慣がある人
意外に思われるかもしれませんが、
喫煙はインプラントの成功率を下げる要因です。
タバコは
- 血流を悪くする
- 傷の治りを遅らせる
- 感染リスクを高める
といった影響があります。
そのため、
喫煙者には禁煙を勧める歯科医師も少なくありません。
④ お口のケアが難しい人
インプラントは、
入れたら終わりの治療ではありません。
- 毎日の歯磨き
- 定期的な歯科受診
これができないと、
インプラント周囲炎と呼ばれるトラブルが起こります。
これは、
インプラントの歯周病のようなものです。
お口のケアが難しい場合、
長期的にはインプラントが不利になることもあります。
⑤ 「簡単そうだから」という理由だけの人
これは医学的な条件とは少し違いますが、
とても大切なポイントです。
- すぐ終わりそう
- 広告で安心と書いてあった
- 高いから良い治療に違いない
こうした理由だけで決めるのは、
おすすめできません。
インプラントは
理解と納得があって初めて選ぶ治療です。
「できない」と言われたら、失敗ではない
インプラントができないと言われると、
がっかりする方もいるかもしれません。
しかしそれは、
安全を最優先した判断です。
外科医としても、
「できない」と判断することは
決して逃げではなく、責任ある選択だと感じます。
第4章:高齢者でもインプラントはできる?


「もう年だからインプラントは無理ですよね?」
診察の場で、こうした質問をされることは少なくありません。
結論から言うと、
年齢だけを理由にインプラントができない、ということはありません。
70代、80代でインプラント治療を受けている方も実際にいます。
参考HP:インプラントDOC:インプラントは高齢になったらどうなる?起こる可能性があるトラブルやリスクを解説します
年齢より大切なのは「体の状態」
インプラントができるかどうかを決めるのは、
年齢ではなく、次のような点です。
- 全身の健康状態
- 持病のコントロール状況
- あごの骨の量と質
- 術後の通院・ケアができるか
外科医の感覚としても、
「年齢が若くても条件が悪い人」
「高齢でも問題なく手術できる人」
どちらも珍しくありません。
高齢者で特に注意が必要なポイント
高齢になるほど、
次の点はより慎重に評価されます。
・持病と内服薬
- 糖尿病
- 心臓病
- 骨粗しょう症の治療薬
これらは手術の安全性に関わります。
・回復力
若い人に比べると、
腫れや治癒に時間がかかることがあります。
・通院やセルフケア
インプラントは
定期的なメンテナンスが前提の治療です。
通院や日常の歯磨きが難しい場合、
別の治療法が向いていることもあります。
高齢だからこそ、メリットが大きい場合も
一方で、高齢者だからこそ
インプラントの恩恵を受けやすいケースもあります。
- 入れ歯が合わず、食事がつらい
- しっかり噛めず、食欲が落ちている
- 会話がしにくい
「噛めるようになる」ことは、
栄養状態や生活の質に直結します。
外科医としても、
噛める=生きる力につながる
これは強く実感するところです。
第5章:インプラントの費用はなぜ高い?いくらかかる?

インプラント治療について調べると、
多くの人が最初にぶつかるのが「費用」の問題です。
「1本〇十万円」
「医院によって値段が違いすぎる」
なぜこんなに幅があるのでしょうか。
インプラントは基本的に「自費診療」
まず大前提として、
インプラント治療は保険が使えない自費診療です。
そのため、
- 価格は歯科医院が自由に設定できる
- 使用する材料や設備に差が出る
- 医師の経験やサポート体制も含まれる
この結果、費用に幅が生まれます。
インプラント費用の内訳
「インプラント1本〇円」と言われますが、
実際には複数の工程と費用が含まれています。
主な内訳は以下の通りです。
- 検査・診断(CT撮影など)
- インプラント体(人工歯根)
- 手術費用
- 土台(アバットメント)
- 被せ物(人工歯)
- 術後のフォロー・メンテナンス
外科医の感覚で言えば、
手術+材料+長期管理がセットになった費用、というイメージです。
インプラント費用の目安(1本あたり)
以下は、一般的な目安です(地域・医院により差があります)。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 検査・診断(CTなど) | 1〜5万円 |
| インプラント体(人工歯根) | 10〜25万円 |
| 手術費用 | 5〜15万円 |
| アバットメント | 3〜10万円 |
| 被せ物(人工歯) | 5〜20万円 |
| 合計 | 30〜50万円前後 |
※骨を増やす治療(骨造成)などが必要な場合は、さらに費用がかかることがあります。
なぜ医院ごとに価格が違うのか?
費用の違いには、きちんと理由があります。
① 使用する材料の違い
- インプラントメーカーの違い
- 被せ物の素材(セラミックなど)
② 設備・安全対策
- CTの有無
- 滅菌体制
- 手術環境
③ 医師の経験・症例数
これは外科全般に共通しますが、
経験や判断力は結果に直結します。
④ 術後フォローの内容
- 定期検診の頻度
- トラブル時の対応
これらも費用に含まれます。
「安いインプラント」は大丈夫?
価格が安いこと自体が、
必ずしも悪いわけではありません。
ただし、確認しておきたいポイントがあります。
- どこまでが費用に含まれているか
- 追加費用が発生する条件
- 術後の保証やフォロー
「安さ」だけで判断せず、
内容を比較することが重要です。
医療費控除は使える?
インプラント治療は、
条件を満たせば医療費控除の対象になります。
- 噛む機能の回復が目的
- 美容目的だけではない
これに該当する場合、
確定申告で税金が戻る可能性があります。
第6章:インプラントのデメリットとは?知っておくべき注意点

インプラントは優れた治療法ですが、
決して「万能」ではありません。
ここでは、
インプラントを検討する前に
必ず知っておいてほしいデメリットを整理して紹介します。
デメリット① 外科手術が必要
インプラント治療は、
あごの骨に人工の歯根を埋め込む外科手術です。
多くの場合は局所麻酔で行われ、
大手術ではありませんが、
- 腫れ
- 痛み
- 内出血
といった術後症状が出ることがあります。
外科医の立場から見ても、
「体にメスを入れる以上、負担がゼロということはない」
これは正直な事実です。
デメリット② 治療期間が長くなることがある
インプラントは、
入れてすぐ終わる治療ではありません。
- 骨とインプラントが結合するまでの期間
- 状態によっては段階的な治療
これらを含めると、
数か月〜半年以上かかることもあります。
「早く終わらせたい人」には、
ストレスになる可能性があります。
デメリット③ 費用が高額になりやすい
前章で詳しく説明しましたが、
インプラントは基本的に自費診療です。
1本あたり30〜50万円前後、
条件によってはそれ以上かかることもあります。
治療費だけでなく、
将来的なメンテナンス費用も考える必要があります。
デメリット④ 定期的なメンテナンスが必須
インプラントは「虫歯にならない」一方で、
インプラント周囲炎というトラブルがあります。
これは、
インプラントの歯周病のような状態で、
進行するとインプラントが使えなくなることもあります。
- 毎日の歯磨き
- 定期的な歯科受診
これができない場合、
インプラントは不利になることがあります。
デメリット⑤ 誰にでもできる治療ではない
これまでの章でも触れましたが、
- あごの骨が少ない
- 全身疾患がある
- 喫煙習慣がある
こうした条件によっては、
インプラントが向かない場合があります。
「希望すれば誰でもできる治療」ではありません。
インプラントのデメリットまとめ
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| 外科手術が必要 | 腫れ・痛み・感染などのリスクがある |
| 治療期間が長い | 数か月以上かかることがある |
| 費用が高い | 保険適用外で高額になりやすい |
| メンテナンス必須 | 定期通院・セルフケアが必要 |
| 適応が限られる | 骨量や全身状態に左右される |
第7章:なぜインプラントの広告はこんなにも多いのか?

首都高速を走っていると、
ふと目に入るインプラントの看板。
一度気になり始めると、
「こんなに多かったっけ?」と思うほど、
あちこちで目にするようになります。
では、なぜインプラントの広告は
これほど多いのでしょうか。
理由① インプラントは「自費診療」だから
最大の理由はここです。
インプラント治療は、
保険が使えない自費診療です。
そのため、
- 価格設定が自由
- 利益構造が比較的明確
- 広告費をかけても回収しやすい
という特徴があります。
これは歯科に限らず、
美容医療などにも共通する構造です。
理由② 「分かりやすい言葉」で伝えやすい治療だから
インプラントは、
- 失った歯を取り戻せる
- しっかり噛める
- 見た目が自然
と、
メリットを短い言葉で伝えやすい治療です。
「〇〇万円」「即日」「安心」
こうしたキャッチコピーは、
忙しい日常の中でも目に留まりやすくなります。
理由③ 高齢化で“ニーズが増えている”
日本は高齢化が進み、
歯を失う人も増えています。
- 入れ歯が合わない
- しっかり噛みたい
- 見た目を保ちたい
こうしたニーズに、
インプラントは合致します。
需要があるところに、広告が集まる
これは自然な流れとも言えます。
理由④ 競争が激しい分野だから
歯科医院の数は、
コンビニより多いとも言われます。
その中で、
- 自分の医院を知ってもらう
- 他と違いを出す
そのために、
広告が重要な役割を持ちます。
インプラントは
医院の“強み”として打ち出しやすい分野でもあります。
まとめ:首都高の看板から始まった、インプラントという選択
首都高速を走っていて、
何気なく目に入ったインプラントの看板。
「こんなに多かっただろうか?」
そんな小さな違和感から、
今回あらためてインプラント治療について調べてみました。
調べてみて分かったのは、
インプラントは決して
「誰にでも簡単にできる治療」でも、
「特別に怖い治療」でもない、ということです。
しっかり噛めるようになる。
見た目が自然になる。
生活の質が大きく改善する。
その一方で、
外科手術であること、
費用がかかること、
長期的なメンテナンスが必要なこと。
メリットとデメリットは、必ずセットで存在します。
外科医として日々感じるのは、
医療で後悔が生まれる多くの場面が
「よく知らないまま進んでしまったとき」だということです。
広告は、治療を知るきっかけとしては有用です。
ただし、広告だけで判断するのは危険です。
大切なのは、
- 自分の体の状態に合っているか
- リスクや限界を理解しているか
- 納得できる説明を受けているか
その上で、
「自分で選んだ」と言える治療を受けることだと思います。
この記事が、
インプラントを検討している方にとって、
冷静に判断するための材料の一つになれば幸いです。
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