
「人はおしりで呼吸できるのか?」
そんな問いを聞いたら、多くの人は思わず笑ってしまうかもしれません。ところがこの一見ふざけたテーマが、2024年のイグノーベル賞を受賞し、世界中で真剣に議論されています。
実は私たちの体は、肺だけでなく“おしり”からもさまざまな物質を吸収する能力を持っています。座薬が効くのもそのためですし、昔から「おしりからアルコールを入れると酔う」という危険な話があるのも、医学的には理由があります。そして今回、ついに「酸素」まで吸収できる可能性が示されたのです。
笑って終わらせるのは簡単ですが、この研究の背景には、重い肺疾患や呼吸不全の患者をどう救うかという、極めて真面目な医療の課題があります。
本記事では、イグノーベル賞で話題になった“おしり呼吸”の研究を入り口に、「直腸からの吸収」という身体の意外なしくみを、座薬・アルコール・酸素という身近で不思議な例を通してわかりやすく解説していきます。
読み終わる頃には、「人間の体って、想像以上に奥が深い」と感じてもらえるはずです。

第1章 イグノーベル賞受賞!「おしりから呼吸する」研究とは?

人間は通常、肺で空気を吸って二酸化炭素を吐き出すことで呼吸をしています。
でも2024年のイグノーベル賞(生理学・医学賞)の受賞テーマの1つに、
「直腸から酸素を吸収できる可能性を示した研究」
が選ばれました。このタイトルを聞くと、思わず突っ込みたくなりますよね:
「え、本気ですか?」
でも、この研究は単なるジョークではなく、実験データにもとづいた真剣な科学です。
🧪 どんな実験をしたのか?

研究チームはまず、**動物モデル(例:ブタやマウス)**を使って検証しました。実験の概要は以下の通りです:
- 直腸内に特殊な液体を注入
この液体は酸素をたっぷり含んでおり、血管に溶け込みやすいよう工夫されています。
(※ 通常の空気そのものを送り込んでいるわけではありません) - 血液中の酸素濃度を測定
酸素を含んだ液体を直腸に入れた後、血中酸素濃度がどれだけ変化するかを測定しました。 - 結果として、血中酸素が上昇する傾向が見られた
通常、酸素は肺の肺胞で吸収されますが、この実験では直腸の血管を通して酸素が血中に入る可能性を示しました。
つまり、マウスやブタの実験では、“肺以外の場所”からでも酸素を取り込むことができる余地があるということです。
🧠 なぜこんな発想が生まれたのか?

イグノーベル賞は、「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究に贈られる賞です。
この「おしりで呼吸」というテーマ自体が刺激的で笑いを誘いますが、その背景には極めて真面目な問いがあります。それは、
肺の機能が低下した患者を、従来の方法とは異なる形で救えないか?
という深刻な医療課題です。肺炎や重度の呼吸不全では、酸素を十分に取り込めず命に関わることがあります。現在は人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)などの高度な医療機器を使いますが、それらが使えない環境や状況もあるのが現実です。
そこで研究者たちは「もしかしたら別の組織から酸素を補給できるのでは?」という発想に立ち、**直腸という“血流豊富で吸収が得意な組織”**に着目しました。
第2章 「おしりから薬を入れる」座薬という立派な医療
「おしりから薬を入れる」と聞くと、どこか子どもの頃の記憶や、少し恥ずかしい印象を持つ人も多いかもしれません。しかし**座薬(坐剤)**は、れっきとした医療現場で広く使われている、
非常に理にかなった投与方法です。
直腸の粘膜は血流が豊富で、薬を比較的速やかに全身へ吸収できるという特徴があります。
また、口から薬を飲めない場合(嘔吐がある、意識障害がある、嚥下が難しいなど)にも使えるという大きな利点があります。
さらに、直腸から吸収された薬の一部は肝臓での初回通過効果を回避できるため、内服より効きが安定することもあります。
つまり座薬は、「仕方なく使うもの」ではなく、あえて選ばれている投与経路なのです。
座薬にはどんな種類があるのか?
実際には、私たちが思っている以上に多くの薬が座薬として使われています。以下に、代表的なものをできるだけ網羅的にまとめました。
主な座薬の種類一覧
| 分類 | 薬の種類・目的 | 代表的な成分・例 |
|---|---|---|
| 解熱・鎮痛 | 発熱・痛みを抑える | アセトアミノフェン |
| 鎮痛・抗炎症 | 強い痛み、炎症 | ジクロフェナク、インドメタシン |
| 鎮痙 | 腹痛、腸管のけいれん | ブチルスコポラミン |
| 便秘治療 | 排便を促す | グリセリン |
| 抗てんかん | けいれん発作の抑制 | ジアゼパム |
| 制吐 | 吐き気・嘔吐の抑制 | メトクロプラミド |
| 抗炎症(局所) | 痔、直腸炎 | ステロイド含有坐剤 |
| 抗菌・抗真菌 | 感染症治療(局所) | メトロニダゾール など |
| 抗悪性腫瘍 | がん治療(一部) | テガフール系坐剤 |
| ホルモン製剤 | 子宮・直腸周囲疾患 | プロゲステロン系 |
| 麻酔・鎮痛補助 | 術後や緩和医療 | モルヒネ坐剤(一部施設) |
※ 実際の使用は年齢・病状・施設により異なります。
なぜ「おしり」から入れると効くのか?


座薬が効く理由はシンプルです。
- 直腸粘膜は吸収力が高い
- 血管が豊富で薬が血流に乗りやすい
- 消化管を通らないため胃腸障害が少ない
- 嘔吐や嚥下困難があっても使える
第3章 おしりからお酒を入れると酔う?―アルコール吸収のちょっと危険な話
ここまで読むと、「直腸は吸収がいい」「座薬はよく効く」という話がだいぶ腑に落ちてきたと思います。
では次に浮かぶ疑問は、少し不謹慎だけれど多くの人が一度は耳にしたことがあるこの話です。
「おしりからアルコールを入れると、すごく酔うらしい」
結論から言うと――
👉 本当です。そして、かなり危険です。
🍺 なぜ“おしりアルコール”は危ないのか?

アルコールは非常に吸収されやすい物質です。通常、私たちが飲酒すると、
- 胃・小腸から吸収
- 門脈を通って肝臓へ
- 肝臓で一部が分解(これがいわゆる「肝初回通過効果」)
- その後、全身へ
という流れをたどります。
ところが、直腸から吸収されたアルコールの一部は、この“肝臓のチェック”をすり抜けて、いきなり全身循環に入ってしまいます。
つまり、
ブレーキなしで血中アルコール濃度が上がる
という状態が起こりうるのです。
😵 酔いは強くなるのか?
はい、強くなります。しかも、
- 急激に
- 自分の想定以上に
- コントロール不能に
酔いが進む可能性があります。
口から飲む場合は、「酔ってきたな」と感じて飲むのをやめることができます。しかし直腸投与では、吸収を途中で止めることができません。
その結果、
- 急性アルコール中毒
- 意識障害
- 呼吸抑制
- 最悪の場合、死亡
といった重篤な事態に至る危険があります。
実際、海外では「アルコール浣腸(alcohol enema)」による事故や死亡例が報告されています。
まとめ
おしり(直腸)からの吸収は、薬の投与経路としては医学的に確立された方法ですが、
アルコールなどを自己判断で使用することは非常に危険です。
イグノーベル賞を取ったことからも分かるようにおしり、直腸には大きな可能性があります。
まさか、酸素が直腸から吸収されるなんて考えたことありませんでした。
おそるべしイグノーベル賞!!
KOY
KOYblog他記事:イグノーベル賞、インプラント、性犯罪/大久保病院