
「高難度の手術に診療報酬を加算する方向で検討へ」――
そんなニュースが報じられました。外科医の確保が難しくなる中、長時間かつ高度な技術を要する手術を、これまで以上に正当に評価しようという動きです。
では、そもそも「高難度」「長時間」とは、どの程度を指すのでしょうか。
ニュースでは語られないこの部分に、実は外科医の現場の苦労が詰まっています。
腹部手術の中には、数時間で終わるものもあれば、5時間、6時間、時にはそれ以上かかる手術も珍しくありません。
患者さんにとっては「無事に終わること」が何より大切ですが、その裏側で外科医や手術チームがどれほどの時間と集中力を注いでいるのかは、あまり知られていないのが現状です。
今回の診療報酬加算の議論は、そうした“見えにくい負担”に光を当てるきっかけになるかもしれません。
この記事では、厚労省の動きを紹介しつつ、実際の腹部手術ではどれくらいの時間がかかるのかを具体的に見ていきます。数字で見てみると、外科医療の現場が少し違って見えてくるはずです。
ニュース:高難度の手術で診療報酬を加算へ 外科医確保に向け 厚労省

厚生労働省は23日、若手の医師が減っている外科の一部の診療科で、手術の実施時に加算できる新たな診療報酬を設ける方針を、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)に示した。業務負担が大きい外科医は担い手確保が課題となっており、医師の診療科偏在を解消する狙いがある。
長時間で高難度な手術が対象となる見通し。厚労省によると、消化器外科医が担う腹部のがん手術などが想定されるという。
2022年の国の調査によると、診療科別の医師数は、「消化器・一般外科」で唯一、02年比で減少していた。日本消化器外科学会は、膨大な業務負担が診療科の選択肢として敬遠されてきた背景にあると分析している。
加算にあたっては、医師の働き方改革につながるように、交代勤務制を導入することなど、負担軽減に取り組むことも条件にする。
また、厚労省はこの日、近年の物価高騰で経営が逼迫(ひっぱく)する急性期病院を対象に、新たな入院基本料を導入することも提案した。救急搬送件数や全身麻酔の手術件数などに応じた診療報酬体系になる見通しで、今後詳細を議論する。
第1章:🔍 なぜ今、手術の診療報酬を見直すのか?
「手術をすれば、病院や医師には十分な報酬が支払われている」
多くの方は、そう思っているかもしれません。ですが実際には、
手術の“大変さ”と報酬が必ずしも釣り合っていないという現実があります。
特に問題となっているのが、長時間かつ高い技術を要する外科手術です。
たとえば腹部のがん手術では、数時間にわたって集中力を切らさず、細かな操作を続ける必要があります。
途中で手を止めることはできず、トイレに行くことも、水分をとることも簡単ではありません。
それでも、手術時間が長くなったからといって、報酬が大きく増える仕組みにはなっていません。
その結果、外科医、とくに消化器外科医の数は年々減少しています。
若い医師たちが「忙しさ」「責任の重さ」「長時間労働」に比べて、見合った評価が得られないと感じ、外科を選ばなくなっているのです。
実際、日本では多くの診療科が医師数を増やす中で、消化器・一般外科だけが減少しているというデータもあります。
さらに近年は、医師の働き方改革も進んでいます。長
時間労働を是正することはとても大切ですが、その一方で「誰が高難度の手術を担うのか」という新たな課題も浮かび上がってきました。
手術は時間で区切れず、途中交代も簡単ではありません。
結果として、負担が特定の外科医に集中しやすい構造が続いています。
こうした状況を受けて、厚生労働省は「特に難しく、長時間に及ぶ手術については、これまで以上に評価すべきではないか」と考え、診療報酬の加算を検討し始めました。
これは単なる“給料アップ”の話ではありません。将来も安心して手術が受けられる医療体制を守るための仕組みづくりなのです。
では、実際に「高難度」「長時間」とされる腹部手術は、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。
次の章では、具体的な手術を例に、手術時間の実情を見ていきます。
第2章:腹部手術の「手術時間」と難易度
「手術」と聞くと、1〜2時間ほどで終わるイメージを持っている方も多いかもしれません。実際、比較的短時間で終わる手術もあります。しかし、腹部の手術、特にがんを扱う手術では、何時間もかかることが決して珍しくありません。
まずは代表的な腹部手術と、そのおおよその手術時間を見てみましょう。
■ 比較的短時間で行われる腹部手術
- 虫垂切除術(いわゆる盲腸)
→ 約1〜2時間 - 胆のう摘出術(腹腔鏡手術)
→ 約1.5〜2.5時間
これらは一般の方にもなじみのある手術で、手術件数も多く、標準化が進んでいます。ただし、炎症が強い場合や癒着がある場合は、時間が延びることもあります。
■ 中等度〜高難度の腹部手術
- 大腸がん手術
→ 約3〜6時間 - 胃がん手術(胃切除+リンパ節郭清)
→ 約3〜5時間
がん手術では、単に臓器を切除するだけでなく、がんの広がりを見極めながら、血管や神経を傷つけないよう慎重に進める必要があります。リンパ節の郭清(取り残しを防ぐ操作)が加わることで、手術は一気に難しく、長くなります。
■ 最も高難度とされる腹部手術
- 肝切除(大きな切除)
→ 約4〜7時間 - 膵頭十二指腸切除術(いわゆる膵頭十二指腸切除)
→ 約5〜8時間以上
これらは腹部手術の中でも特に難易度が高い手術です。出血管理、臓器再建、合併症リスクへの対応など、一瞬の判断ミスが命に直結する場面が続きます。手術中、外科医はほぼ立ちっぱなしで、極度の集中状態を何時間も維持し続けます。
■ 手術時間が長くなる理由
腹部手術の時間が長くなるのには、明確な理由があります。
- 臓器や血管の構造は人によって違う
- がんの進行度や癒着の有無で難易度が大きく変わる
- 出血や予期せぬトラブルへの即時対応が必要
- 「早く終わらせる」より「安全に確実に」が最優先
手術はスピード競争ではありません。数十分の確認作業が、術後の合併症や再手術を防ぐこともあります。そのため、高難度手術ほど「時間がかかる=丁寧に行われている」と言い換えることもできます。
■ それでも評価は同じ?
ここで問題になるのが、診療報酬の仕組みです。
現行制度では、5時間を超える手術と、3時間で終わる手術とで、労力の差が十分に反映されないケースがあります。
長時間に及ぶ手術は、医師だけでなく、看護師、麻酔科医、臨床工学技士など、多くの医療スタッフを拘束します。それでも「時間」「難易度」「リスク」に見合った評価がされていない――この点が、今回の診療報酬見直し議論の大きな背景となっています。
✅ 代表的な腹部手術の手術時間(目安)
| 手術名 | 手術時間の目安 | 難易度・ポイント |
|---|---|---|
| 虫垂切除術 | 約60〜120分 | 比較的標準的手術。緊急手術も多い。 |
| 胆嚢摘出術(腹腔鏡) | 約90〜150分 | 解剖変異や炎症で延長することあり。 |
| 大腸がん切除術 | 約180〜360分 | 範囲やステージで大きく変動。 |
| 胃切除術(幽門側) | 約150〜300分 | リンパ節郭清が入ると時間延長。 |
| 膵頭十二指腸切除(膵頭十二指腸切除術) | 約300〜600分 | 最も高難度の一つ。合併症リスクも高い。 |
| 肝切除(部分切除) | 約180〜420分 | 切除範囲・出血管理が鍵。 |
※ これは一般的な目安です。手術手技、担当医の経験、患者の体格・病態、合併症の有無で大きく前後します。
まとめ
高難度で長時間に及ぶ腹部手術は、外科医にとって身体的にも精神的にも大きな負担を伴う医療行為です。
それでもこれまで、その負担や責任の重さが、十分に評価されてきたとは言えませんでした。
今回、厚生労働省が検討を始めた診療報酬の加算は、そうした現実に向き合おうとする動きの一つです。
手術時間が長いからといって、それは「危険な手術」や「特別な例」という意味ではありません。
むしろ、患者さんの安全を最優先に、慎重に、丁寧に進めている結果であることも多いのです。
腹部のがん手術などでは、数時間にわたる集中と判断の積み重ねが、術後の回復や再発率に大きく影響します。
また、話は少しそれますが患者さんの体型でも手術の難易度は大きく変わってきます。
現場では昔から「肥満症例にたいする加算がほしいね」という声が多くあります。
今後はこの点についても検討していただけると今後の外科治療の発展につながると思います。
KOY
KOYblog:抜け毛/ミノキシジル