「ゾンビたばこ」とは何か――プロ野球界を揺るがした事件から考える、その正体と医学的危険性


はじめに

2026年1月、衝撃的なニュースが日本中を駆け巡りました。広島東洋カープの羽月隆太郎選手(当時25歳)が、いわゆる「ゾンビたばこ」を使用した疑いで広島県警に逮捕されたのです。容疑は医薬品医療機器法違反(指定薬物の使用)。広島県内では初めての摘発事例となりました。

報道によれば、羽月容疑者は2025年12月16日ごろに「エトミデート」と呼ばれる指定薬物を使用した疑いが持たれており、本人は「エトミデートを使った覚えはない」と容疑を否認しています。その後の初公判では「周囲に使用しているカープ選手がいた」との供述もあり、さらにはライブ配信で「カープ選手6人が購入」という発言まで飛び出すなど、球界を大きく揺るがす事態へと発展しました。

この事件をきっかけに、多くの人が初めて「ゾンビたばこ」という言葉を耳にしたのではないでしょうか。本記事では、ゾンビたばことは一体何なのか、なぜ「ゾンビ」と呼ばれるのか、そしてその医学的な危険性について詳しく解説していきます。

項目ゾンビたばこのポイント
正体エトミデートという医薬品成分を含む危険ドラッグ。主に電子たばこ用リキッドとして吸引される形で確認されている。
本来の用途海外では鎮静剤・麻酔導入薬として使われることがある成分。ただし、日本では医薬品として未承認。
なぜ「ゾンビたばこ」と呼ばれる?使用後に手足のけいれん、ふらつき、意識がぼんやりする様子が「ゾンビのように見える」ことからそう呼ばれる。
薬理・作用中枢神経を抑制し、強い鎮静作用を起こす。正常な判断力や運動機能が低下し、意識障害につながることがある。
主な症状ふらつき、けいれん、意識障害、記憶が飛ぶ、呼吸が弱くなる、転倒、事故など。
危険性呼吸抑制や意識障害により命に関わるおそれがある。使用中の交通事故、転倒、他人を巻き込む事件につながる危険もある。
普及している場所・経路国内では一部地域で乱用例や逮捕例が確認されている。SNSなどを通じて若者に広がることが懸念されている。
法律上の扱い2025年5月26日から「指定薬物」に指定。医療等の用途以外での製造、輸入、販売、所持、購入、譲受、使用などは禁止されている。
どのような犯罪になる?違法な製造・輸入・販売・所持・購入・使用などが問題となる。さらに、使用後に車を運転して事故を起こす、暴れる、他人を傷つけるなどすれば、交通犯罪や傷害事件につながる可能性がある。
読者へのメッセージ「電子たばこに見えるから安全」ではない。中身が不明なリキッドや怪しい製品は、買わない・使わない・関わらないことが重要。

ゾンビたばことは何か

「ゾンビたばこ」とは、合成麻酔薬「エトミデート」を染み込ませた紙巻きたばこ、あるいは電子たばこ用リキッドの俗称です。エトミデートは本来、医療現場において全身麻酔の導入に使用される静脈麻酔薬であり、手術前の短時間の意識消失を目的として厳密な管理のもとで使われる薬剤です。

それがなぜ「ゾンビ」と呼ばれるのか。理由は使用者の姿にあります。エトミデートを吸引した人は、急激な意識混濁に陥り、目は虚ろに開いたまま、体の力が抜けてふらふらと歩いたり、路上に倒れ込んだりします。その様子がまるで映画に登場するゾンビのように見えることから、この不気味な俗称がつけられました。

海外ではアメリカやヨーロッパの一部地域で以前から問題となっており、街中でゾンビのように徘徊する使用者の動画がSNSで拡散され、社会問題として認知されていました。日本でも2024年頃からSNSや闇市場を通じて流通し始め、2025年には指定薬物として規制対象に加えられました。


エトミデートの薬理作用

エトミデートの危険性を理解するためには、その薬理作用を知る必要があります。

エトミデートは脳内のGABA-A受容体に作用し、中枢神経系を強力に抑制する薬物です。医療用途では体重に応じた精密な投与量が計算され、呼吸管理が可能な環境で、専門の麻酔科医の監視下で使用されます。作用の発現が早く(静脈注射後30〜60秒)、持続時間が短い(5〜15分程度)という特徴から、短時間の処置に適した麻酔薬として重宝されてきました。

しかし、これを「たばこ」として吸引する場合、状況はまったく異なります。吸引による摂取では薬物の血中濃度を正確にコントロールすることが不可能であり、過量摂取のリスクが極めて高くなります。医療現場で厳密に管理されるべき薬物を、素人が自己判断で使用することの危険性は計り知れません。


医学的な危険性

ゾンビたばこの医学的な危険性は多岐にわたります。以下に主要なリスクを整理します。

1. 呼吸抑制による死亡リスク

最も深刻な危険性は呼吸抑制です。エトミデートは中枢神経を抑制することで呼吸中枢にも影響を及ぼし、呼吸回数や呼吸の深さが著しく低下します。医療現場では人工呼吸器が備えられていますが、路上や自宅で使用した場合、呼吸停止が起これば直ちに生命の危機に直結します。特にアルコールや他の薬物との併用は、呼吸抑制を相乗的に増強させ、死亡リスクを飛躍的に高めます。

2. 意識消失による二次的な事故

急激な意識消失は、転倒による頭部外傷、交通事故、水辺での溺水など、さまざまな二次的事故を引き起こします。使用者は自分がどこにいるか、何をしているかの判断能力を完全に失うため、線路への転落や車道への飛び出しといった致命的な状況に陥る可能性があります。

エトミデートには、副腎皮質でのコルチゾール合成を阻害するという重大な副作用があります。コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれ、血圧の維持、免疫機能の調節、血糖値のコントロールなど、生命維持に不可欠な役割を担っています。反復使用によってコルチゾールの分泌が慢性的に低下すると、副腎不全と呼ばれる状態に陥り、重度の低血圧、電解質異常、感染症への抵抗力低下、最悪の場合はショック状態を引き起こします。

4. 心血管系への影響

エトミデートは比較的循環動態への影響が少ない麻酔薬として知られていますが、それはあくまで医療用量での話です。過量摂取した場合には不整脈や血圧の急激な変動が起こり得ます。また、使用中の転倒や外傷による出血と低血圧が重なれば、心停止のリスクも無視できません。

5. 精神的依存と常習性

エトミデートには身体的依存性は比較的低いとされていますが、使用時の解離感や多幸感から精神的な依存が形成されやすいと指摘されています。「嫌なことを忘れられる」「現実から離れられる」という動機で使用を繰り返すうちに、使用量がエスカレートし、より深刻な健康被害につながるという悪循環に陥ります。

6. 不純物による健康被害

違法に流通するゾンビたばこは、製造過程が一切管理されていません。エトミデートの純度や濃度は製品ごとにばらばらであり、どのような不純物が混入しているかもまったく不明です。医薬品としてのエトミデート自体の危険性に加え、未知の有害物質を同時に吸入するリスクも抱えることになります。


なぜ若者の間で広がるのか

ゾンビたばこが広がる背景には、いくつかの要因があります。まず、SNSを通じた情報拡散によって「手軽に試せる」という誤った認識が広まっていること。次に、従来の違法薬物と比べて入手のハードルが低いとされること。そして「合法だった時期がある」という事実が、危険性の過小評価につながっていることが挙げられます。

しかし、2025年に指定薬物として規制されたことで、所持・使用・販売はすべて違法行為となっています。「以前は合法だった」という認識は、現在においてはまったく通用しません。


プロ野球選手の逮捕という衝撃的な事件は、ゾンビたばこの危険性を社会に広く知らしめるきっかけとなりました。私も今回の事件を契機に初めて知りました。
羽月選手は小さな体ですが、力強い打球を打てて魅力的な選手じゃったけん、個人的に期待していたので残念です。

「たばこ」という名前がついているために軽い気持ちで手を出す人がいるかもしれません。

しかし、その実態は医療現場で厳格に管理される全身麻酔薬です。

適切な医療設備も専門家の監視もない環境で使用すれば、呼吸が止まり、そのまま命を落とす可能性があります。

もし周囲にゾンビたばこに関心を持っている人がいれば、その危険性を正しく伝えてください。

KOY

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